人間、いったん悩みをかかえてしまうと、その悩みから早く解放されよう、早く良くなろうと思いすぎて、その良くなり方がわからなくなってしまうものです。いろいろな方法で気分転換をして忘れる努力をしてみたり、やけになって居直ってみたり、自分の気持ちを鼓舞させるために自分自身を叱咤激励してみたり、などなど悪戦苦闘してしまいます。しかし、そうした悪戦苦闘の割には、もうひとつ効果的な解決策が得られず、悪循環を繰り返してしまうことが多いものです。
激務の中で心身症を起こして入院していた、ある一流企業の部長さんが病院を抜け出して相談に来られました。
心身症に関する医学、心理学の本を小脇に抱えた彼曰く、
「私は治すためにいろいろな本を読みました。また自己鍛錬法と思って、毎日ヨガや自律訓練法もやりました。挙句には気分転換にと友人に勧められて、生まれて初めてパチンコもやりました。でもいっこうによくなりません。」と言うのです。
「パチンコでは勝ちましたか?」と私が尋ねると、首を横に振り、
「勝つことが目的ではなくて、治すことが目的なのです」と答える始末です。
早く良くなろうとする彼の気持ちは痛いほどよくわかります。でも皮肉なことに彼のようながんばり過ぎる努力の仕方〝悩み方〟では、例えその努力の方法が正しくとも報われないものです。彼のこうしたやり方〝体験の仕方〟は、きっと仕事でも家庭でも、さらには遊びででも同じだったのでしょう。そして彼が心身症を起こさざるを得なかった最も大きな原因はこんなところにあったのですね。
こんな彼に向かって私はこう言います。
「パチンコは勝つためにやってください。ただし長時間やってても疲れないように、座り方を工夫してぼちぼちやってください」と。
これは決して悪ふざけで言っているのではありません。彼のこれまでのがんばり過ぎる努力の仕方〝悩み方〟を、もっと上手な努力の仕方〝悩み方〟へと変えるための逆説的なアプローチなのです。彼ががんばり過ぎない努力の仕方〝悩み方〟を体験し、余裕をもって事に当たることができるようになると、その努力も 功を奏し始めることでしょう。
人間、生きている限り悩みはつきものです。悩みを抱えた時、大切なことは、悩みを早く完璧に消し去ろうとするのではなく、より上手な〝悩み方〟の工夫を考えることなのです。上手な〝悩み方〟ができるようになると、不思議と悩みは自然に解決されていくものです。(「上手な『悩み方』…ぼちぼちいこか」(松木繁 )」,菅野泰蔵編,1998, 法研)引用)
松木心理学研究所〝心の相談室〟り・らあくでは、来談されるクライエントと信頼関係を構築し、言葉にならない心の声に寄り添うことで抱えている問題や症状との「上手な付き合い方」 を学び、本人が本来備えている潜在的資源や能力、自己治癒力、可能性を引き出し開発して、より良く生きる力にできるようお手伝いさせて頂きます。
所長 松木繁(まつき・しげる)
1952年 熊本県生まれ京都育ち
臨床心理士、公認心理師、松木心理学研究所 所長,鹿児島大学名誉教授
元、鹿児島大学大学院臨床心理学研究科臨床心理学専攻教授(2018年3月退職)
元、花園大学社会福祉学部臨床心理学科教授(2023年3月退職)