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2018年の世界催眠学会(ISH)の学会企画の会議に、世界の8名の催眠療法家の一人として招聘されて話題提供してきました

この会議では、午前中は世界を代表する催眠療法家8名と催眠研究者8名がそれぞれ別室に分かれてディスカッションし、午後は催眠療法家と研究者が一同に会して、催眠療法の治癒機制について話し合いました。その時の共通のコンセンサスは以下の通りでした。私は、催眠療法家の1人して招聘されて、持論である「催眠トランス空間論」(“松木メソッド”)について話題提供し、多くの賛同を得られました。

 

催眠療法の治癒機制について

 

1.催眠の治癒機制に関する最新の知見

 2018年にカナダのモントリオールで開催された国際催眠学会(ISH)主催の、第 21回大会(XXI World Congress of Medical and Clinical Hypnosis)では、前日の学会企画シンポジウム(Gosls and Structure of Researcher/Clinician Pre-Congress Sympojium)において、世界の催眠療法家8名と催眠研究者8名とが一同に会し、催眠療法治癒機制に関する現時点での結果をまとめました。私も世界の催眠療法家8名の1人として学会より招聘されて参加してきました。以下の写真はその時のもので、1枚目は発表後のディスカッション場面、2枚目は世界の代表的な催眠療法家8名の集合写真です。

 

 その時の会議のまとめでは、催眠の治癒機制について以下のような共通のコンセンサスが得られました。催眠療法の治癒機制の重要点は、以下の4点にまとめられます。

1)催眠者と被催眠者との関係性(relationship)
・ Attunement(≒情動調律?・情動調整?)が重要なキーワード
・催眠者ー被催眠者(治療者-患者)の協働による治療空間の形成(cf.催眠トランス空間論)

2) Hypnotic state(催眠状態)へのより深い理解の必要性
・解離を中心とした催眠の持つ特殊な状態(cf.新解離理論)
・これによって、Neuroplasticity(神経可塑性)が高まるという仮説

3)催眠前の様々な要素に着目することの重要性
・催眠者のパーソナリティ特性や心身の健康度(治療者要因)
・被催眠者の期待や動機づけ(患者要因)

4)Suggestion(暗示)へのより深い理解
・どういったタイプの被催眠者(患者)にどういったタイプの暗示が最も効果を示すのか。前言語的・身体感覚的な被催眠者の語りを暗示としてUtilize(利用)するといった工夫の必要性

 

この結果を見ての私の見解

1.催眠療法治癒機制で最も重要な点は、催眠者と被催眠者との関係性(relationship)だと共通のコンセンサスが認められたことは、これまで催眠療法の大きな誤解であった「支配性」や「操作性」,「洗脳」といったイメージを払拭してくれたという意味で大きな意義があったと思います。
つまり、催眠療法は催眠者(治療者)が被催眠者を支配したり、洗脳したりすることではなく、両者の共感的な関係性や協働が重要なのだとわかったことです。

2.催眠と催眠療法の有効性に関するスコーピングレビューを眺めると、この4つの観点が生物・心理・社会の3領域の全てを組み入れた包括的モデルになっていることに気付きます。催眠療法は、単一の要因に焦点化した限定的なモデルよりも包括的なモデルによってj考えることが有用であると考えられるのです。少し難しくなりますが、他の医療行為などと同じく精神療法も、より効果的な治療を行うためには、生物・心理・社会モデルに基づく包括的なアプローチを考えなければいけないことがわかったということです。このことは、催眠研究の中で長年、論争の続いた「状態論」と「非状態論」の融合にも繋がることだと私は考えています。

 

これらの点は先にも触れていますが、難しい説明になってしまいましたので、この点での考え方に興味をお持ちの方は、高石先生らによる名著、「現代催眠原論」と以下の私の拙著をご覧になって下さい。

・「現代催眠原論」(高石昇,大谷彰編著,2012, 金剛出版)
・「催眠トランス空間論と心理療法-セラピストの職人技-」(松木繁編著,遠見書房,2017)
・「無意識に届くコミュニケーション・ツールを使う-催眠とイメージの心理臨床」(松木繁著,遠見書房,2018)